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「THE裁判員」の私的レビューv

▼ ゲーム紹介 ▼

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開発元:
価格:
機種:
発売日:
CERO:
プレイ環境:

個人的評価:
インタラクティブノベルAVG
(株)D3PUBLISHER
(株)ウィッチクラフト
2,800円
Nintendo DS
2009年5月21日
C(15歳以上対象)
1人用/セーブ1つ

★★★★☆
■ストーリー
雪の夜にこの世を去った、主人公『五條誠司』は、殺された無念から成仏できず、ある理由から因縁深い西東京地方裁判所に居座る浮遊霊になっていた。死者の魂を仕分けする”当局”の官史「ヤマヤマ」と出会い、嘘と真を知る方法を得た誠司は、自らが成仏する為、また”間違った裁判”を止める為、生身の裁判員に憑依する事を選んだのだった…。(取説より抜粋)

■どんなゲーム?
裁判員制度をテーマにしたアドベンチャーゲーム。
プレイヤーは、死者『五條誠司』となり裁判員に憑依して、裁判を正しい判決へと導きます。
裁判でまず検察官や弁護士たちが話す事件の情報を傍聴して、重要と思われるものを選別。それらの情報を使って、憑依していない他の裁判員や裁判官たちを説得して行きます。説得出来る回数は決まっており、相手を見極め「いかに興味を持つ情報を用るか」が鍵。全5話。
▼ レビュー ▼
※ナムコの裁判員ゲーム「有罪×無罪」と対になるよう同じ構成(書き出し)で書いてます。

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裁判員制度の執行日に合わせての発売!
しかも、同時に同じテーマのゲームが2本出るという面白い展開。
かたや老舗のナムコ、かたや超新人のウィッチクラフト(発売はD3)。この2社がそれぞれ、
どういう切り口で裁判員制度をゲームとして落とし込むのか、個性はどう出るのか?!

といった、謳い文句を言ってしまいたくなるほど注目していたタイトル。
もちろん、ここは2本とも発売日に特攻購入。

結果は、両方とも面白かった〜!
甲乙付けがたいほど、2社ともゲームとしてのエンターテイメントに溢れてました。
2本の比較は、もう片方の「有罪×無罪」のレビューも読んで貰うとして。
こちらは、「THE裁判員」の内容について書きたいと思います。

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まず、これはもう「シンプル」ではないですね。
凄いボリュームと作り込み。逆によくこの低価格に収めたなと不思議に思うくらいです。

ボリューム的には5話。
雑誌等では「クリアまで10時間」とありましたが、テキストをしっかりと読んで遊ぶと、
個人差はあるものの1話4時間くらい掛かります。なので、全部で20時間弱といった感じ。
法廷シーンから、評議の説得シーンに渡り、テキストたっぷり読む事が出来ます。

その肝心のストーリーですが、抜群に面白かった

主人公は幽霊で、「裁判員に乗り移って他の裁判員を説得する」という設定から、
イロモノ扱いされそうですが、ちゃんと地に足の付いた、(幽霊に足というのも変ですが)
骨太な内容になってました。中でも第3話は、死刑を扱うかなりヘビーな展開。
”裁判員制度は死刑も扱う”という、事実ではあるけどゲーム的には避けるかな?と
思う内容をあえて入れてくる、このチャレンジ精神はなかなかのものだと思います。

それに、主人公を幽霊としたことで、バラバラな5つの事件の上に、主人公は自分の死に
どう決着を付けるのかと言う、大きな1本のストーリーを乗せる事に成功しています。

死に別れた婚約者との切ない再会や、自分を殺した男との再会など、
かなりハラハラして、止め時を見失う構成は見事で、特に4話から5話のラストに
かけての話が一気に集約されていく展開は、感動的ですらありました。
分岐は無いのですが、良質で濃い1本道のストーリーで私は気になりませんでした。

ストーリーを彩るキャラや音楽も良いですね。
音楽は重厚で世界観バッチリに場面を盛り上げてくれます。

登場人物は60人以上。(事件毎に、裁判員と事件関係者が一新される為かなり多い)
この60人の書き分けがとにかくすごい。
美少女はややパターン化されているものの、その他のタイプのキャラは男女共、
輪郭から目や鼻の形、体形と、根本的な部分からまったく違うという描き分けっぷり。
このキャラデザをした上田メタヲさんの引き出しの多さに脱帽です。
内面も個性豊かに書き分けてあり、脚本担当の方の力量もすごいの一言。
このおかげで、次の事件はどんな人達が出るんだろうとワクワクできて楽しいです。

個人的には、ナビ役のヤマヤマがお気に入り。
重いストーリーを緩和する役割も持っている割には、底知れない黒さが魅力的です。
そして後半に、ヤマヤマの秘密が明らかになった時の衝撃は忘れられません。
ヤマヤマが今主人公と共にここにいる意味。右片方のデザイン。ゾクゾクします。
そしてラストのラストでジーンとします。ホントに良いキャラだヤマヤマは…。
人間だったら、仙波裁判官が一押し。クールな彼を説得するのが楽しすぎる!!

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ゲーム的には、最終的にどちらの判決に行くべきか最初に分かるタイプです。
最初から結果が分かってるなんて、つまらないと思われがちですが、そんな事はなく。
だって、逆転裁判だって最初に犯人出るし、「依頼人を無罪に」って最初から判決結果を
提示されているのに、つまらないどころか面白いじゃないですか。それと同じです。

むしろ、出すべき判決が先に分かっている事で、目的意識を一方に向けやすいし、
何といっても、安心感が違う。
「有罪×無罪」のどちらにも転ぶあの緊張感(こちらはこれが売り)と比べたら…!
ここら辺は、好みの問題かも知れませんね。(私はどちらも好きです)

有効な情報をチョイスして、その情報で裁判官や裁判員を説得していくプロセスは、
人によって反応の良い話題が違ったり、同じ話題でも逆効果だったりと、
結構、駆け引きがあったりします。ただ、難易度はあからさまなヒントがあるなど、
かなり低く設定されているので、ゲーム性としてはやや低い方かな。

そこら辺は、正式なジャンル名がインタラクティブノベルAVGという事から、
介入出来る読み物という側面が強いからだと思います。

ただし、そのヒント通りに動くだけだと、全員は説得できないようになっているので、
100%クリアは、自ら試行錯誤する必要があるなど、結構骨のある遊びも出来る仕組み。
(周回プレイ用に、スキップ機能がかなり充実してるので、100%取るのも楽なのは◎)

まずは誰でも解けて、やりこみはそこからだ!という感じでしょうか?
そういう、ライトユーザーにもヘビーユーザーにも、という姿勢。嫌いじゃないです。
たださじ加減がライトユーザー寄りなので、ヘビーユーザーにはえらいヌルイですが。(^^ゞ

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色々褒めていますが、ツッコミ所もあります。

1つは、作りが丁寧がゆえに第1話の取っ付きが悪くなってる事
裁判の説明部分がかなり長く、テキストも一気に大量に表示されるせいですね。
第2話からは、公訴事実なども簡潔にまとめられ読みやすくサクサクと進むのですが、
第1話は専門用語も多く、主人公もまだ優柔不断なので、かなりだる〜い感じになります。

もう1つは、膨大なテキストを読むゲームなのに、バックログが無い事。
他のシステム部分は(特にテキスト送り関連は、スピード5段階調整、テキスト自動送り、
各話クリア後の早送り等)、本当によく練られていて、細かい所まで作られているのに、
(個人的には、シーンを一気に飛ばすプロセススキップがすごい便利で好きです)
なぜ、これだけポコっと抜けてるのか逆に不思議です。おまけモードも充実してるのに…。

あとは、セーブがチェックポイント制という所がいまいちかな。
セーブしても少し戻されるのは、テキスト量が多いだけにやっぱりちょっと不便です。
ただ、あくまでこれは「シンプルシリーズ」なので、そこまで求めるのは酷かなと思ったり。

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色々書きましたが、私自身はとても満足しています。
シンプルシリーズでは、「THE爆弾処理班」と並んで1位でも良い感じ。

決して便乗発売じゃない、面白いものを作ってやる!という心意気も感じられたし。

自ら切り開いていく感は薄いけど、介入できる読み物としては抜群に面白いし、
この値段でこれだけ楽しい時間を体験できるなら、★5でもいいんですが、
最初の取っ付きの悪さと、バックログ無しもあるので、ギリギリ★4で。

裁判物が好きで、死者が介入するという設定にぐっと来る人、
アクの強い、尖がった感のあるストーリー展開が好きな人、
キャラ重視の人、ある程度の安心感の上でハラハラしたい人にオススメ。

ただし、裁判員のお勉強がしたい。非現実な設定が少しでも入っているのは許せない!
って人には、オススメしません。そういう方は、ぜひ「有罪×無罪」を。

とにかく最初、「ん?面白くないかな?」って思っても、
とりあえず2話までは遊んでみて欲しいと思う1本です。

このゲームでデビューしたウィッチクラフトですが、
次に作った脱出+乙女ゲーの「暗闇の果てで君を待つ」も、すごい面白かった。

毛色の違うゲームを作り分ける技術と丁寧さに、すっかりファンになりました。
こういう会社には頑張ってもらいたいので、今後も応援して行きたいと思います。 (10/01/13)





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