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「有罪×無罪」の私的レビューv

▼ ゲーム紹介 ▼

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発売日:
CERO:
プレイ環境:

個人的評価:
裁判員推理アドベンチャーゲーム
(株)バンダイナムコゲームス
5,040円
Nintendo DS
2009年5月21日
B(12歳以上対象)
1人用/セーブ1つ

★★★★★
■ストーリー
閑静な住宅街で火災が発生。半焼した民家から70歳女性の遺体が発見された。火災の原因は天ぷら鍋の発火によるものと判明。警察は近くに住む被害者の長男の嫁(27)を「放火殺人」の容疑で逮捕した。被告人は事件当時に鍋に火をかけたまま外出しており、失火を装った放火であると検察側が主張。対する弁護側は、殺意を完全に否定。料理に不慣れな若妻による過失であると主張し、両者の意見は真っ向から対立していた…。(第一の事件概要)

■どんなゲーム?
裁判員制度をテーマにした社会派推理アドベンチャーゲーム。
プレイヤーは一人の裁判員となって、裁判で有罪とも無罪ともとれる事件の真相を、他の裁判員や裁判官達と話し合いながら皆で推理して行きます。人の意見に「賛成」「反対」「質問」「黙っている」を選ぶ事によって話し合いは進み、選び方で「有罪」「無罪」どちらの判決にも転ぶのが特徴。元検事総長の松尾邦弘氏監修により、リアルな裁判員制度が体験できる。全4話。
▼ レビュー ▼
※D3の裁判員ゲーム「THE裁判員」と対になるよう同じ構成(書き出し)で書いてます。

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裁判員制度の執行日に合わせての発売!
しかも、同時に同じテーマのゲームが2本出るという面白い展開。
かたや老舗のナムコ、かたや超新人のウィッチクラフト(発売はD3)。この2社がそれぞれ、
どういう切り口で裁判員制度をゲームとして落とし込むのか、個性はどう出るのか?!

といった、謳い文句を言ってしまいたくなるほど注目していたタイトル。
もちろん、ここは2本とも発売日に特攻購入。

結果は、両方とも面白かった〜!
甲乙付けがたいほど、2社ともゲームとしてのエンターテイメントに溢れてました。
2本の比較は、もう片方の「THE裁判員」のレビューも読んで貰うとして。
こちらは、「有罪×無罪」の内容について書きたいと思います。

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このゲームを一言で表すなら「実直」ですね。

裁判員制度の開始にタイミングを合わせて発売と聞くと、「ああ、便乗商売ね」とか、
元○○監修とか言われると、「ゲーム作成のド素人が口挟んでグダグダに…?」とか、
ついそんな風に穿った見方をしちゃたりする訳ですよ。色々地雷を踏んできた人は特に。

でもこれは、そんな事は全然なく、ひたすら真面目に丁寧に、
「裁判員裁判」というものをゲームに落とし込む事に成功しています。
しかも、レクチャー色も強いのに推理ものAVGとしてちゃんと面白いというさじ加減。
このバランスは、さすがナムコという感じですね。

世界観やストーリーは、リアル志向一直線です。奇抜なトリックなどはなく、
どこにでもいる普通の人達の、すぐ近くで実際に起こっていているような現実的な事件。
そんな身近な事件を扱っているので、妙な緊張感があります。(特に火事や運転関連)

そして、そういう事件を「評議」という形で推理していくのですが、これが面白い。

事件のポイントを、『殺害動機』、『睡眠薬』、『火災報知器』などの議題(ファクター)にして、
1つ1つ話し合って行きます。具体的には、
「私は殺意はあったと思うわ。だって○○が△△じゃない」という他の裁判員の意見に、
まず、「賛成」「反対」「質問」「黙っている」を選んで次の選択肢を…という流れ。
この受け答えによって、各ファクターの結論も変わって行く為、結構自由度が高いです。

それにこのシステムだと、「自分は評議に参加してる感」を強く感じられて良いですね。

この方法だと、主人公1人が特別優秀で、推理力で人々を驚かすというヒーロー的展開は
薄い代わり、他の5人の裁判員や3人の裁判官と一緒に、話し合い検討し合い、
協力しながらたった1つの真実にたどり着くという、団結できた感の喜びがあります。

裁判員達とのやりとりも、実際にありそうなユーモアも混じってて◎。
出てくる他の裁判員や裁判官も、地味ではあるけど個性もちゃんとあり、
ああこんな人もいるわーと、笑えたりもします。特に裁判長が良い味出してる
「裁判員の素朴な疑問」も、評議中にさりげなく出てきて勉強にもなりますね。

肝心のストーリーも良く練られていて、いい所で二転三転していきます。
そして、新事実が発覚する度に、過去の検証が全く別の意味を持つという熱い展開!
この時の全員でハッとなるカットインの演出が、他が地味な分引き立つんですよね〜。
このシーンがくると、テンションが上がります。キタキター!みたいに。

そして、衝撃のラスト。(4話を100%クリアするとなる)
賛否両論あるようですが、私は鳥肌立ちました。
もう、どうしようどうしようと読みながら本気でアワアワしたし。
私は「人を裁く裁判もけして万能ではない」という、裁判というシステムの限界を描いた、
秀逸なラストだと思ってます。このラストで忘れられないゲームになりました。
ただ、何事もスカっと終わりたい人や、大団円が好きな人はイヤかもしれませんね。

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そんな中、このゲームの最大の特徴がこれ。
最終的にどちらの判決に行くべきかまったく提示されないです。

先の読めないゲームは多々ありますが、それでも方向性は提示されている訳ですよ。
職業が警察側(検事・刑事・探偵)なら、犯人を逮捕や有罪にするように動けば良いし、
弁護士なら、被告人(依頼人)の罪が軽くなるように動けば良い…。みたいな感じに。
そういう方向性がまったく提示されず、あくまで「中立」であることを求められる裁判員。

これはなかなか新鮮です。裁判員は完全に中立なので、
今ある情報や証拠品”のみ”で「有罪」か「無罪」かを決めなくてはいけません。
しかも、答えを知らない訳だから、被告人が反省の言葉を切々と述べても、
それが「演技」なのか、それとも「本当に反省してる」のかと、頭の中がグルグルします。

そして、進め方によっては、判決はどっちにも転ぶんですよ。これは怖い!

だって法律のド素人がですよ、1人の人間の人生を決める判断を下すなんて、
ゲームとは言え、猛烈に怖いじゃないですか!
でも、そもそも裁判員って、そういうものなんですよね。
それを考えると、このゲームはかなりリアルな裁判員体験が出来るとも言えます。
自然に真剣な受け答えとかするようになるし、ゲームする態度から変わるというか。

とはいえ、どっちにも転ぶと言っても真実は1つなので、真相究明が100%未満だと、
クリア後、真相究明度○%表示と一緒に、ヒントも出るし、裁判を途中からやり直せたりも
するので(この辺はすごく親切だと思います)、そんなに気負う事もないのですが、
初回プレイは、ホント最初から最後までドッキドキの緊張感を味わえます。

人が人を裁くことの難しさや怖さ、不安感を味わえるのがこのゲームの売りですね。

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色々褒めていますが、不満点がない訳ではないです。

まず、ボリューム。
1話1話はそれなりの長さなのですが、全4話はやっぱり少ない印象になります。
100%クリアで隠しシナリオオープンとかもないし、フルプライスならあと1話は欲しい所。
あと、バラバラな4つの事件を、ただ並べているだけはちょっと寂しいですね。
豪勢なおまけを!とは言わないけど、レクチャー色が強いなら用語辞典は欲しかった。

次に、裁判員裁判をリアルに再現しているがゆえに、展開のテンポがやや遅い事。
「THE裁判員」に比べたら、スムーズな方なのですが、それでも裁判部分は長いです。
特に、補充尋問がない初日の裁判パートは、出てくる情報をほぼ聞くだけ仕様なので、
さくっと評議したい、すぐにでも推理したいと思うタイプの人には、だるい展開かも。

テキスト早送りも遅めだし、自動送りやSE調整もないので、だるさに拍車が掛かります。
この辺のシステム周りの簡素っぷり。いっそこっちがシンプルシリーズ?と思うくらい。

ただし、こちらはバックログ完備。
とはいえ、評議に入ると裁判部分のログは読めないのであまり意味がないという。orz

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とマイナス面も書きましたが、それでも夢中で遊べたし、とても満足しています。

「裁判員」を扱ったAVGの、システムの雛形を作ったといっても過言ではない感じ。
話によると、完全ナムコ内製で、企画から開発まで2年掛けたとか。
最初は実用ソフトだったのを、途中で1から作り直したというナムコの英断に乾杯!

自ら切り開いていく感は高いし、とにかくハラハラ感が抜群に良かったので、
ボリューム不足やバックログの惜しさを引いても★5です。万人にお薦めしたいゲーム。

特に、裁判員に興味がある人、裁判員裁判を疑似体験しておきたい人、
先の見えない展開にハラハラしたい人、文字が好きな人、内容重視の人にオススメ。

絵は見ているうちに慣れるので、拒絶反応が出るほど苦手じゃなければ大丈夫。

とにかく、最初、「ん?面白くないかな?」って思っても、
ラスト(4話100%)まで遊んでみて欲しいと思う1本です。

このタイトルは、続編も作りやすいと思うので、続編を希望します。
もし出たら即買い。その時はぜひ、裁判長だけは変えずにいて欲しいです。(10/01/15)





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